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最高裁判所第二小法廷 昭和38年(オ)1273号 判決

上告人

嘉松スミ

被上告人

三宅金作

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について。

しかし、登記は物権の対抗力発生の要件であつて、この対抗力は法律上消滅事由の発生しないかぎり消滅するものではないと解することは、当裁判所の判例(当小法廷判決昭和三三年(オ)第二号、同三六年六月一六日、民集一五巻六号一五九二頁)とするところ、強制競売の申立による強制競売手続開始決定につき、債務者に対する送達および強制競売の申立の記入登記がなされて差押の効力が生じた場合についても、右と同様に解することができる。したがつて、競売申立人の不知の間に右登記が不法に抹消されたときにおいても、競売手続開始決定による差押の効力はそのまま存続するから、競売申立人は、登記上利害の関係ある第三者に対しても、右抹消登記の回復登記の手続について承諾を与うべき旨を請求することができるものと解するのが相当である。

そして、このことは、目的不動産についてさきに競売手続開始決定のあるため競売申立人による強制執行の申立が民訴六四五条二項の規定により執行記録に添付された場合において、右競売申立人の不知の間に右申立が第三者により不法に取り下げられ、執行裁判所が右申立が取り下げされたものとして取り扱われたために、他の事由にもとづき前記競売手続開始決定が取り消され強制競売の申立の記入登記が抹消されたときにも、同条二項後段の規定の趣旨からみて、右競売申立人との関係においては、同様に解するのが相当である。

所論は、登記上利害関係のある第三者は回復登記によつて不測の損害を受けるかどうかにより右承諾義務の有無を決すべきである旨主張するけれども、競売申立の記入登記が不法に抹消されている以上、その回復登記の有無にかかわらず、第三者は競売申立の記入登記による差押の効力を否認することができないのであり、したがつて、回復登記によつてもともとあるべき姿にもどるのみであつて、実体上損失を蒙ることにはならないから、右第三者は実体関係に符合させるための回復登記手続に対する承諾を拒み得ないものと解される(前記判決参照)。(論旨引用の判例は本件に適切でない。)

原判決には、所論のような違法はなく、所論は、採用しがたい。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。(裁判長裁判官奥野健一 裁判官山田作之助 草鹿浅之助 城戸芳彦 石田和外)

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